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AWS Summit 2018へ出展。次世代SIOS Coatiで採用したサーバーレスアーキテクチャーを題材に最新IT動向を講演

2018年5月30日~6月1日の3日間にわたり、グランドプリンスホテル新高輪(東京・港区)でAWS Summit Tokyo 2018が開催されました。サイオステクノロジーは展示ブースの出展に加え、SIOS Coatiをテーマにセッションを提供。その模様をレポートします。

テクノロジー2018年6月14日

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国内最大級のクラウドコンピューティングカンファレンスに参加

クラウドコンピューティングエコシステムが一堂に会してアマゾン ウェブ サービス(AWS)に関する情報交換・コラボレーション・学習をおこなうAWS Summit。昨年に引き続き、サイオステクノロジーは、GoldスポンサーとしてTokyo / Osakaの両会場に出展し、展示ブースでは自動復旧クラウドサービス「SIOS Coati」と HA クラスタソフトウェア「LifeKeeper/DataKeeper」を中心に紹介しています。イメージキャラクター「コーティーくん」のグッズが当たるハズレなしの抽選会も好評で、5月30日(水)から6月1日(金)にて開催された東京会場は多くの来場者で賑わい、サイオステクノロジーのブースには3日間で1,600名の方々に来場いただきました。

イベント初日の5月30日(水)には、「SIOS Coatiをサーバーレスアーキテクチャーで全部書き直してみた!」と題し、サイオスグループ米国法人SIOS Technology Corp.の Member of the Board 栗原 傑享(くりはら まさたか)が講演をおこない、会場は満席で注目を集めました。

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最先端テクノロジーを採用した新しいSIOS Coatiの中身

栗原は、まず既にリリースされているSIOS Coatiの次世代バージョンの完全置き換え開発をおこなっている最中であることを前置きし、その背景となった、以下の3つの課題と目的を挙げました。

  1. セキュリティ面への懸念から初版はシングルテナントで作成。しかし契約数が増えれば、オペレーションとコストが正比例で増大 ⇒ マルチテナントな仕組みへと変更
  2. 当時他に方法がなく、顧客からSSH鍵を預かる運用 ⇒ 顧客にとって抵抗感のない「SSM」と「Assume-Role」を用いた方法へ変更
  3. 契約・申し込みや課金・請求がシステム化しておらずマンパワー頼み ⇒ オペレーションをソフトウェアで自動化し、米国進出も目指す

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それぞれのより具体的な内容として
(1) 新しいSIOS Coatiのエンジンは、TypeScriptで書かれたLambdaの固まり。Lambda特有の「時折、起動しない」「複数回呼ばれる」リスクは、冪等性(べきとうせい)の保持と、AWS Step Functionsを利用して対策しています。Step Functionsは、複数のLambdaをまとめて、実行ステータスを保持しLambdaが呼び出されない不都合があっても例外として捕捉できます。これは今後の業務システムの構築などでも使える機能です。ストレージはDynamo DBで、ほぼ1パーツ=1Dynamo。Dynamoのトリガーでイベントが走ることで、全体がつながっています。一つ一つのパーツが独立したマイクロサービスとなり、全体は疎結合なモノシリック構造になっています。

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(2)のセキュリティの問題に関しては、SSMとAssume-Roleの利用が非常に有用。Assume-Roleは所有権の異なるAWS環境間で用いられるAPIで、ベンダーが顧客とあらかじめ信頼関係を結ぶことにより、設定の範囲内に限ったAWSの操作権限を受け取ることができます。おそらくSaaSを作るのでもない限り通常利用されないAPIですが、企業の中でも部門を超えたIT提供をおこなうのに、係るコストや得られた手柄の帰属を明確にするため、もっと利用ケースが増えて良いAPIだと思います。

(3)のオペレーション部分は、自前でサーバーレス開発する他に商用サービスのSaaSも大いに活用しています。契約と課金の実際はStripe、サポートにZendesk、デジタルマーケティングでMarketoと、既に実績を有する商用サービスを組み合わせることで、早く安定的な仕組みが出来上がります。またコンテンツもサーバーレスで作ろうと、WEBサイトはStatic Site Generator (SSG)とSingle Page Application (SPA)で構成。あらかじめコンパイルされるためにランタイムがなくなるSSGはセキュリティ懸念を減らすことができます。そこに箇所を絞ってリッチな顧客体験をSPAで補完しました。SSGではHUGOというOSS、SPAはVue.js とAWS Amplifyを利用しています。

その他、SIOS Coatiの作り替えに採用した技術は下図を参照してください。

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エンタープライズITの変革──20年間の課題に答えが

次に、そもそもAWSが掲げている「サーバーレス」とは何か?と栗原は投げかけました。
「サーバーレスはサーバーがなくなるわけではない。サーバーの管理や構築から解放されるという状態を指しています。インフラおよび頻出するクロスカッティングな機能は、ほぼすべてAWS側に用意され、万一AWSに足りないものも商用のSaaS多数が、既にインターネットレディで動いており、すぐに確かめ、すぐに使えます。外部だけではなく、社内の別のプロジェクト、もしくは過去の案件の成果物も再利用ができるマイクロサービスにまとめておけば、いつでも流用できる。(講演時間が短いことから、サーバーレス=マイクロサービスと説明を省略して言い換えたことを会場に断ってから)これはパーツの再利用であり、コンポーネント化であり、これまでEJBやActiveXやSOAやEnterprise service bus......様々なアーキテクチャーで解決しようとしてきた、安く早く質の高いシステムを実現したいという欲求への回答です。ここ20年間ずっと取り組まれ続けてきた命題ですが、最初で、もしかすると最後の現実的な解決環境がようやく整いはじめました。再利用の粒度がライブラリからマイクロサービスへ進化し、複雑な仕組みも構築できます。パーツパーツをうまく使いこなせば、早く安く、しかも間違いなく動くシステムを作ることができる。今後はこの方向で企業の課題解決の質が高まってくるでしょう」と栗原はいいます。
これからの企業内のシステム開発部門は、根元的な課題の発見とそれを解決するアイディアの創出が求められ、機能要件へ選択集中し、試行回数を増やし、少人数でよりスピーディな開発を可能とするスクラム開発が常識になっていくと説明しました。

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また栗原は、「企業内のIT調達スタイルが変わっていくのです。社内のある部門でシステムを作成している過程で生み出したマイクロサービスが、思いがけず他部門でも利用され、その部門の収益・成果となるかもしれません。企業グループ内でのマイクロサービスを俯瞰して投資コントロールし、さらには収益化するのがCTOやCIOのミッションの一部となるでしょう。ちなみにサイオスはマイクロサービスを収益化するためのAPIエコシステム構築に、一歩先の事業として取り組んでいます。長年、エンタープライズITの中心だったフルスクラッチSIerは、ますます厳しい状況を突き付けられ、大きなビジネスの転換を強いられるでしょう」と語り、じきに「SIの終焉」が訪れ、一部のブランドCIerを除いてCI(Cloud Integration)の市場も魅力的ではなくなると解説しました。

「SIの終焉」の到来とは刺激的なフレーズですが、その真意はポジティブです。エンタープライズITは再利用可能なマイクロサービスの組み合わせと、マイクロサービスの開発・提供が主軸になります。その結果、マイクロサービスを提供する会社が爆発的に発生し、その後の大淘汰の時期を生き残れるものは、ほんの一握りと予測されます。しかしそれぞれの課題解決について決定的なSaaSを提供できれば、世界を市場とした大きなビジネスチャンスを手中に収められるということです。

一方、「技術者には、コアコンサーンを実現する能力が求められるようになり、それは根源的な課題の発見・解決するアイディアの創出・システム企画・設計・構成・実装・テスト・運用・検証といったアプリケーションライフサイクルのワイドスパンを一人で担える技量である」と語り、最後にSIOS Coatiを一緒に開発するフルスタックエンジニア募集の旨を伝えて笑いを誘い、講演は締めくくられました。

栗原 傑享(Masataka Kurihara)略歴
SIOS Technology Corp.(サイオスグループ米国法人)Member of the Board
90年代後半ニフティサーブでDelphi Users' Forumを主宰。インターネット普及前に数万人の会員を集め、そのうちの同士数人と有限会社グルージェント(現サイオスグループ傘下の株式会社グルージェント)を創設。2000年代中頃にはNPO法人Seasar Foundationを立ち上げ、代表理事に。2009年9月からサイオステクノロジーの執行役員としてSI事業と、次いでクラウド事業の推進を担当していた。近年は米国シリコンバレーに駐在して現職であるSIOS Technology CorpのMember of the Boardを務め、外食事業会社との合弁で現地設立したBayPOS, Inc. のCFO/CTOを兼務していた。
今TypeScriptが好きなのは、昔(作者が同じ)Delphiを好きだったからかもしれない、と今回の講演をきっかけに過去20年をしみじみ振り返った45歳。