心理状態を可視化して組織の活力向上へ
2015年11月25日に開催されたウィリズムセミナーで、キーポート・ソリューションズが開発した「Willysm(ウィリズム)」が紹介されました。個人や組織の心理状態を可視化・数値化する特許申請中のサービスです。
製品・サービス2015年12月15日
従業員のセルフチェックやセルフケアの支援は企業に課せられた責務
2014年6月「労働安全衛生法の一部を改正する法案」(通称:ストレスチェック義務化法案)が国会で成立。社員50名以上の職場では、2015年12月から年1回のストレスチェックが義務付けられました。
ストレスチェックは、国が推奨する57項目のストレスに関する質問票(職業性ストレス簡易調査票/選択回答)に対して、社員やパート職員、アルバイトなど労働者が自分の心理状態を記入し、専門家の判定により、自分がどのようなストレス状態にあるかを調べる検査です。紙の質問票を配布・回収する方法のほか、ITシステムを使って実施しても構いません。オンライン検査であれば、システム側でデータを自動集計・分析し、検査結果をより簡単に確認することができます(例:厚労省が提供するサイト)。
「ストレスチェックの大きな目的は、高ストレスの個人に医師など専門家による適切なアドバイスやサポートを提供すること。そして匿名化された組織全体の分析結果を職場の改善に生かすことです。大事なのはストレスチェックのタイミングです」と指摘するのは、本セミナーの主催者であり、Willysmを開発した株式会社キーポート・ソリューションズ(以下、KPS)の代表取締役社長 森田昇です。
Willysmの開発元、キーポート・ソリューションズ 代表取締役社長の森田昇
「ストレスには、良いストレスと悪いストレスがあります。また急性と亜急性、慢性などで症状の出方に違いがあり、検査を行うタイミングによっては、重大なストレス反応を見過ごしてしまう可能性があります」(KPS 森田)
さらに東京大学先端科学技術研究センター特任研究員の三宅琢氏は、「良いストレスは乗り越えたときの達成感や仕事のやりがいを感じさせる『スパイス』になりますが、一方で、悪いストレスは放置すると深刻化し、うつ病などの精神疾患や睡眠不足による脳・心臓疾患を引き起こす危険があります。そのため、年1回のストレスチェックだけでは、メンタルヘルス対策は十分といえません」と指摘します。
三宅氏は産業医として、ファーストリテイリングなど大企業で数万人規模の従業員の健康診断やアドバイスなどを手がけています。
産業医として活躍する東京大学先端科学技術研究センター特任研究員の三宅琢氏
仮に企業がメンタルヘルス対策を怠った結果、従業員が病に倒れたと見なされると、経営者や上司が民法上の不法行為責任などを問われ、損害賠償を請求される可能性があります。さらに従業員の休業にともなう生産性の低下など企業経営への打撃も看過できません。
「メンタルヘルスは組織的な問題です。誰かが休業すると、回りの元気な人に負担のしわ寄せがいき、連鎖的にメンタルヘルス不調者が増えていく悪循環が生じる傾向にあります」(三宅氏)
「ストレスチェックのポイントは大きく3つあります。ストレス要因、ストレス反応、そして、サポートの状態です。このうち最も大事なのはストレス反応で、現在どんな自覚症状があるかということ。また実践的なスタッフへのラインケアとして『食欲の変化、睡眠の質の低下、趣味などの行動意欲の低下』の状況を尋ねる配慮の姿勢を管理職が持つことが大切です。遅刻や無断欠勤、挨拶時の表情の変化などから気づくこともあります」と三宅氏は、早期発見に向け従業員同士も日々お互いにチェックし合うことの重要性を強調しました。
とはいえ、従業員数が50人を超えて数百人、数千人、数万人と規模が大きくなり拠点も分散するほど、全社で適切に個々人の状況を把握することは難しくなります。
「メンタルヘルス不調者を減らし、ストレスとうまく付き合うには、従業員一人ひとりが日頃のセルフチェックと早めのセルフケアを行うことが大事。したがって肝要なのは、事業者側が、産業医などの専門家やICTなど社外のリソースをうまく活用し、従業員がセルフチェックを小まめに行える仕組みやサポート体制を整えることです」(三宅氏)。
なお、ストレスチェックが健康診断と違うのは、「事業者が従業員を継続雇用するかどうかを判断するための仕組みではない」ということ。したがって検査結果は、医師などの権限を認められた担当者以外の第三者(事業者など)に、従業員本人の同意なく開示することは認められません。面接指導の結果を理由として、使用者の解雇や雇い止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換、職位の変更を行うことも固く禁じられています。
ストレスチェック制度の開始は2015年12月からですが、企業では2016年11月30日までストレスチェックを終えればセーフ。「次年度の予算に盛り込めるよう、今からでも間に合うのでぜひ準備を」と三宅氏は来場者に呼びかけました。
企業価値の向上につながる健康経営を目指す「Willysm(ウィリズム)」
働く人の心に不安や緊張を与えるストレスの要因には、ビジネス環境を取り巻く高度な情報化やグローバル化などが挙げられます。とりわけIT系の企業は、ストレスを感じる人が多いと言われる業種。
そうした中、IT系の企業をはじめとする様々な事業者から注目を集めているのが「Willysm」です。
Willysmは、個人および組織の心理状態を可視化・数値化するためのユニークなサービスです。管理者だけでなく、従業員自身も自分の組織における気持ちの状態や変化を俯瞰することができます。従業員が自分自身の心理状態を客観的に捉えることができるので、不安感や孤立感を和らげ、チームの一体感を高める効果を期待できます。
「メンタルヘルスというとやや後ろ向きな印象がもたれがちです。しかし、私たちは、もっと皆が毎日充実して過ごせる環境づくりを前向きに行えるように、という思いからWillysmを開発しました。一人でも多くの方が毎日ポジティブに過ごすことができ、またその結果として生産性も向上していくご支援ができれば、KPSとしてはこれに勝る喜びはありません」(前出のKPS森田)
従業員はWillysmの画面上に、自身の「気持ち」を3つの色(赤、黄、青)で日々記録していきます。その自分の過去のデータを振り返ることで「気持ち」の変化をセルフチェックすることが可能になります。また、従業員一人ひとりの「気持ち」を一覧化することで、管理者が組織全体の「気持ち」を把握することができます(情報は匿名化され、個人を特定できないように設定することができます)。
一人ひとりが自身の心境を「Excellent!」「Well Done!」「Not So Good」のいずれかより選んで記録していく。「ウィルマップ」(右下)を見ると、組織の心理状態を俯瞰することができる
さらに、ポジティブ思考が身に付くと言われる、幸運・幸福と感じた出来事を3つ(3 good things)を毎日記録するテキスト入力機能、同僚に感謝の気持ちを伝える「メッセージ・プレゼント機能」をWillysmは備えています。good thingsを職場に拡げ、組織全体のモチベーションを高めるメリットもあります。Willysmは、KPSが2015年8月に提供を開始しました。
そして、2015年11月に追加されたWillysmの標準プランに付加されるオプション機能を使えば、前出のストレスチェック制度における、医師による面接指導が求められる高ストレス者の選定や職場改善のための「部課」や「プロジェクトチーム」など一定規模のまとまりの集計・分析(組織分析)も容易になります。
具体的には、Willysmを1〜3カ月間程度観察期間として運用するだけ。事前に設定した条件に合致する人をシステムがフィルタリングします。そしてフィルタリングされた、ストレスチェックが必要と思われる人にストレスチェックを受検するよう自動誘導します。受検結果の通知、面談指導の申し出推奨、職場ごとの集団分析といった機能まで、ワンストップで提供するのがWillysmの特長です。
一人ひとりの「気持ち」で会社のパフォーマンスは変わる
KPSのビジネスイニシアティブユニット ビジネスイニシアティブチーム サブリーダーでシニアコンサルタントの稲田勇祐は、「Willysmを活用したストレスチェックの実施は、職場の活力や企業価値の向上につなげられる好機です」と述べました。
KPS ビジネスイニシアティブユニット ビジネスイニシアティブチーム サブリーダー シニアコンサルタントの稲田勇祐
企業組織におけるメンタルヘルスの状況と業績の間には高い相関関係が認められることを示すデータもあるといいます。
「Willysmの活用によりストレスチェックから、モチベーションマネジメントやプレゼンティーイズム(職場には出勤しているものの何らかの健康問題が原因で仕事の生産性が落ちている状態)の回復支援に至るまで、事業者負担を最適化・効率化した形での実施が容易になります」(稲田)。その期待効果として、休業者の削減、健康で前向きな個人の増加および重大疾病予備軍の減少を挙げました。
Willysmのストレスチェックに関する基本的な考え方
「離職率の低減による機会損失を考慮すれば、Willysmのコストは短期間で回収できるでしょう。また組織の業務プロセスや職場環境の見直しを、データに基づいて着実に実施することが可能になります」(稲田)。
Willysmはクラウドサービスとして提供されますが、オンプレミス環境でも導入可能です。Windows/Mac OSのPCで操作、管理できるほか、「気持ち」の入力やセルフチェックはスマートフォンやタブレットからでも操作できます。
なお、収集されたデータは、管理者権限に応じて閲覧が制限されています。そのため、従業員の個人情報保護対策の面からも安心してご利用いただけます。
「ストレスチェック制度は、みんなが働きやすい、よりよい職場をつくるための制度であり、社内の"うつ病探し"をするモグラ叩きの仕組みではありません」と本セミナーで三宅氏は指摘しました。
皆さんの会社でもストレスチェック制度をポジティブに捉えて、健康で前向きな個人を増やし、組織の活力や企業価値を高める健康経営に取り組んでみてはいかがでしょう。
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