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エピゲノム解析のスペシャリストとの協業で、未知の領域への挑戦を

サイオス、ならびにサイオステクノロジー は株式会社Rhelixa(レリクサ)と資本業務提携をおこない、共同でエピゲノムのクラウド解析プラットフォームを開発することを発表しました。その背景を掘り下げます。

テクノロジー2018年4月16日

2018年3月、サイオステクノロジーは、エピゲノムの情報解析およびソフトウェア・装置開発を手掛ける株式会社Rhelixa(以下、レリクサ)との業務提携を発表しました。今回の提携のカギとなる「エピゲノム解析」や、パートナーにサイオスグループを選んだ理由を、レリクサの代表取締役社長 仲木 竜 氏と、サイオステクノロジー 研究開発1部 部長 野田 勝彦に聞きました。

幅広い分野で活用が期待されるエピゲノムデータ解析

── レリクサの概要をご紹介ください。

仲木 竜 氏(以下、仲木) 3年前まで私は東京大学のエピゲノム研究専門の研究室で、研究者として特に循環器系の疾患を対象に、エピゲノムデータを解析するためのアルゴリズムやソフトウェアを作っていました。そもそも生まれつき主要な臓器のガン(腫瘍)になるゲノムを保有しているヒトはほとんどいません。そういうヒトは、進化の理論上、淘汰されているはずなので。それでも肺がんや胃がんになるのは、後天的なダメージによってDNAが変化していき、細胞が悪性化していくからです。ゲノムとは、両親から受け継いだ遺伝的な分子です。それが、環境や時間、外部からの刺激の蓄積という後天的な影響によって変化していきます。ゲノムを取り巻く相互作用の総称、変化を及ぼす環境要因全体のことを「エピゲノム」といいます。
エピゲノム自体、取り巻く環境全てが候補となるので、その要素は無限にあり、その解析には、専門的なノウハウが必要になります。ゲノム上のどこを観察することでエピゲノミックな状態を記述できるか、そこを絞り込む作業には専用の技術やアルゴリズムが必要です。レリクサは、研究機関や企業に対し、それぞれのエピゲノム解析に応じたサポートを行っています。当社自体が、ある特定のエピゲノムに関する研究を行っているのではなく、エピゲノム解析のノウハウや基盤を提供しているのです。
事実、膨大なデータの読み取りと分析なので、エピゲノム解析には多くの手間とコストがかかります。しかし病気のほとんどは、エピゲノミックな原因によるもの。主要臓器のガン研究などには国からの予算や補助金が出やすいですが、他の疾病の研究にエピゲノム解析を展開するには、アカデミックな体制では困難に感じました。もっとニッチな病気の研究にも自分たちの技術を役立ててほしいと思い、民間の資本を集め、学閥的な枠を超えた技術開発を可能にするために、レリクサを起業したのです。

── エピゲノム解析は、どんな分野で利用されているのですか?

仲木 現在はヒトのヘルスケア分野での利用が主ですが、エピゲノム解析は、ゲノムと同様に地球上のあらゆる生物に適応でき、動植物や微生物においても重要なアプローチになります。特に植物は、エピゲノムによる変化が顕著で多様、スパンも短く変化を許容しやすい性質を持っています。ですから、農林業における生産管理や増産に有用だと思います。もちろん畜産業でも、病気の予防や品質改良などでの活用が期待できますね。世界的には食糧不足の問題が懸念されていますが、その解決にはエピゲノム解析が役立つでしょう。環境による生物の変化の分析なので、自然環境保全のジャンルにも効果的と言えます。またヒト医療の領域でも、特に再生医療系での活用は今後、伸びると思いますね。iPS細胞などは、ゲノムは変化していないのに初期化される、完全にエピゲノムの話です。臓器修復にも、iPS細胞生成の効率化にも、エピゲノムを解かないと目的とする状態のコントロールが難しいため、再生医療の実用化にエピゲノム解析は、不可欠になるでしょう。
今のところ、特定の効果を狙ってエピゲノム変化を起こすのは難しいのですが、既存の対処に対してエピゲノム機序を解いていくことは可能です。エピゲノミックな現象をつなぎ合わせることで効果を上げるのです。いま周囲で起きている現象もエピゲノム的視野で見直すと違った世界が見えてくるのです。

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株式会社Rhelixa 代表取締役社長 仲木 竜 氏

先進気質を持つ、互いに刺激し合えるパートナーに

── エピゲノム解析の活用に、なぜクラウドが必要なのでしょうか?

仲木 レリクサは、研究機関や企業の研究開発をお手伝いしていますが、その研究目的ごとに提供するものは、まったく違ってきます。自ずと労働集約型のビジネスにならざるを得ません。そこには限界があります。エピゲノム解析のさらなる普及を目指すには、われわれのノウハウすべてをシステムに学習させ、私たちの代わりにAIが顧客にサービスを提供する形が理想的なのです。エピゲノム解析は応用範囲が広いだけに、世界中にニーズがあります。そのニーズに応えるためにも、グローバルで汎用的なプラットフォームが必要になるのです。
また、将来的な活用として例えば、農業や公衆衛生の分野においては、現場=フィールドでの利用が必須になってきます。大規模なシステムを持ち歩く訳にはいかないので、クラウド+ポータブルといった環境整備が必要なのです。
現在、大手シーケンサーメーカーによるクラウドサービスも提供されており、その会社のシーケンサーで読み取ったデータをクラウド上で分析できます。データの集約には非常に有用なのですが、ある決まったパターンの解析のみで、ノウハウや手法が集まる仕組みではありません。
構想としては、レリクサが持つデータやノウハウだけでなく、あらゆる研究者の使い方がフィードバックされて、システム自身が成長していくような仕組み、世界中の専門家が得た結果や知見が集約され還元される、エピゲノム情報解析プラットフォームを創りたいのです。

── 今回、サイオスグループと提携されるに至った理由は?

仲木 レリクサを設立して間もなく、サイオスの喜多社長とお会いする機会がありました。「受託事業だけや補助金頼みではなく、自分たちで事業自体を作ってスケールしていくべき」といった旨のお話があったのです。自分としても、都度リクエストに対応するばかりではなく、ソフトウェア化して幅広く普及させる仕組みを作らないといけないと思いました。そうした考えでしばらく事業を続けていましたが、サービスの提供の形として、クラウドを使いたいとなった際に、最初にサイオスが思い浮かんだのです。オープンソースの開発・業務のサポートをされている点と、喜多社長からのアドバイスが印象に残っていた点で、「ぜひ一緒に」と思ったのです。

── 野田さんに伺いますが、サイオステクノロジーがレリクサと組んだ狙いは?

野田 勝彦(以下、野田) サイオスグループは、20周年の機会に「世界中の人々のために、不可能を可能に。」という新たなミッションステートメントを定めました。またサイオスグループが目指す「より良い社会」には、「心豊かな社会」「持続可能な社会」があります。仲木さんの話にもありましたように、エピゲノム解析は、まだまだ発展途上の研究分野ですが、将来的には、人々の健康や食の安全・食料不足・気候変動による森林減少対策などにも応用が可能になるかもしれない「可能性」を秘めた研究ですので、「より良い社会」の実現のために当社が取り組むべきテーマのひとつだと考えています。レリクサとの業務提携は、まさにここにあります。
ただ今回の取り組みは、サイオステクノロジーにとって極めてチャレンジングなものです。エピゲノムのデータは、一つひとつが非常に大きく、解析手法も多岐にわたります。これまでのビッグデータ解析とは、まったく質の違うものになることが予想できます。いわゆるオープンソースやクラウドは、サイオスにとっては日常的なものですが、1ファイルのサイズが数十ギガバイトもあり、解析時に比較のために利用できる公共データの総計は数十ペタバイト(1ペタバイト=1,024テラバイト)以上も存在します。そのような規模のデータを扱うシステムを開発していく過程では、経験したことのない問題に直面することも想定しています。もちろんバイオ関連のシステム開発もサイオスの20年の歴史では初めての挑戦だと思います。しかし、そもそもサイオスの社風は、ベンチャー気質に溢れたものですので、今回の挑戦はサイオスらしい挑戦と言えるかもしれません。

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サイオステクノロジー 研究開発1部 部長
ディスティングイッシュドエンジニア 野田 勝彦

仲木 今回の提携を決めたポイントは、一方的にレリクサが支援されるだけでなく、サイオステクノロジーの側でも、エピゲノム解析に関する知識やノウハウを蓄えていただいて、お互いに得るものがあるパートナーになれる点が大きいですね。

── 最後にお二人に、今回の協業にむけての意気込みを。

野田 繰り返しになりますが、エピゲノム解析はゲノム解析に比べると、まだまだ発展途上の研究である一方、将来的に応用可能と考えられている分野は多岐にわたり、可能性は未知数です。もちろんマーケットのサイズも未知数です。そうした意味でもチャレンジングな事業になりそうです。

仲木 今回の協業で作り上げるシステムは、エピゲノム解析のデファクトスタンダードを目指しています。エピゲノム解析するなら、意識せずともレリクサのクラウドサービスを使っている...というような。今は世界にない、ですが必ず必要となる仕組みだと信じています。

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